もしも歯医者さんで「抜歯」と言われたら・・・

虫歯の歯と抜歯の道具(ペンチやトンカチなど)のイメージ画像

抜歯は、骨に生えている歯を抜く外科手術です。歯医者さんで抜歯が必要だと言われてもすぐに納得はいかないと思います。

現在の治療法は、患者さんの気持ちに寄り添った、できる限り自然の歯を残す治療が主流となっていますが、それでもやはり歯を抜かなければならないケースや抜いたほうが良いケースがあります。それは「悪い歯があることで周りに悪影響があるとき」です。

具体的に、抜歯が必要となるのは以下のケースです。

  • 虫歯が進行し、歯の根の奥が化膿していて、治療を続けても症状が改善されないようなとき。
  • 歯がぐらついていて、インプラント治療や入れ歯治療が困難になるとき。
  • 親知らずが斜めに生えているため、奥まで歯ブラシが届きづらいとき。
  • 親知らずが骨の中に埋まっていたり、横向きに生えていて隣の歯を圧迫したり、歯茎などに悪い影響をあたえる危険性が考えられるとき。

「周囲に悪い影響が及ぶ」の判断は、歯科医によって異なります。しかし、「残しておくことで周囲の歯に悪影響を及ぼす歯は抜いたほうが良い」という考え方は、ほぼ共通ですので、主治医とよく相談してください。

親知らずの名前の由来

歯の生えた子どもと両親が笑顔のイメージ画像

子どもの歯の生え始めは、親であれば必ず気付くとてもうれしい出来事です。ただ「親知らず」の生え始めを知る親はほとんどいません。そのことから「親知らず」という名が付いたといわれています。(諸説あります)

親知らず・親不知(おやしらず)は「智歯」「知恵歯」「第3大臼歯」とも呼ばれ、10代後半から20代前半に生えてくることが多いとされていますが、全ての人に生えてくるわけではありません。上下左右の4本がばらばらに生えてくる場合や、全く生えてこない人もいます。また親知らずは、30代や40代に入って歯茎から突如顔を出し急にトラブルを起こすこともあります。

親知らずを抜いていないことは、「お口にトラブルを抱えている」ともいえるのです。

40歳を過ぎたら要注意?!

40歳を過ぎた人が、歯を痛がっている画像

親知らずは、ただ生えているだけなら痛みを感じることはありません。生える場所、また生え方が特殊なだけで、歯自体の性質はそのほかの歯と変わりません。

親知らずがお口のトラブルメーカー的な存在とされているのは、「虫歯や歯周病になりやすく痛くなる確率が高いこと」が原因です。しかも、年齢を重ねると親知らずが痛み出す可能性が高くなります。その理由は、すでに親知らずが生えていたけどこれまで何の不具合もなかったとしても、歯周病のリスクは加齢に伴って上がります。年齢を重ねてからのほうが注意する必要があるためです。

あなたの親知らず。今どんな状態?

鏡で口の中を見ている画像

親知らずとの付き合い方は、まず、自分のお口の現状について知ることから始まります。ぜひ、お口の中を覗いてみてください。
お口の状態は、段々と変わっていきます。定期的に最新の状態を確認してくださいね。

あなたの親知らずの状態は?
  • 完全に歯茎の下に埋まっている
  • 一部分だけ露出している
  • 完全に歯茎から露出している

この中で一番危険なのは、「一部分だけ露出している」場合です。このような親知らずは、最も虫歯や歯周病になりやすい状態にあります。露出している状態なのは「完全に歯茎から露出している」親知らずも同じですが、違いは“ケアのしにくさ”で、歯と歯茎のあいだに汚れが溜まりやすくなります。とくに一部だけ露出しているほうが歯ブラシが届きにくいため一番危険なのです。

さらに、その親知らずが上の歯の場合は、すぐそばにあごの骨があることも関係して、普通の歯ブラシで完全に汚れを落とすのは難しくなります。また「親知らずが埋まっている」と思っていても、じつは隣の歯に隠れて見えていないだけという場合も意外と多くありますので注意してください。

日本人はあごが小さいので、下の親知らずが生えてこないこともありますが、ずっと生えてこないままとも限りません。親知らずは自分でチェックすることはできても、判断することは難しいので、虫歯なども含めて歯科医院での定期検診をおすすめします。

症状別:痛みの原因と応急処置

親知らずが痛いときは、我慢せずに歯医者さんで適切な治療を受けるのが何よりも大切です。しかし、忙しくてすぐに歯医者へ行く時間が取れないこともありますよね。そんな時のために自分でできる応急処置をご紹介します。

ただし、「しばらく放っておいてしまって、全身症状が現れる」といった最悪のケースもあるため、早めに相談へ行くことをおすすめします

親知らずが痛くなる原因はいくつかあり、痛みのでている部分によって応急処置の方法が異なります。親知らずに欠陥がある場合や、すでに他の部分に悪影響を与えてしまっている場合もあるので、早めに歯医者さんを受診してください。

原因応急処置
智歯周囲炎市販の鎮痛剤
虫歯市販の鎮痛剤・虫歯には市販の塗り薬
第二大臼歯の圧迫市販の鎮痛剤
親知らずが歯茎や頬の粘膜を噛むうがい薬で傷口を殺菌・消毒

智歯周囲炎(ちししゅういえん)が原因の痛み

智歯周囲炎

智歯周囲炎は、親知らずが邪魔をして、周囲の口腔ケアができていないことが原因で菌が繁殖し痛みを引き起こします。

斜めになった親知らずはきれいにブラッシングするのが困難です。歯ブラシは「面を磨く形状」をしていますから、1本だけ「斜めに生えた歯」があると、その周辺をきちんと磨くことができません。
すると、いつも親知らずの周囲だけ磨き残しができて、そこに歯垢が溜まっていき、どんどん雑菌が繁殖していきます。その結果、歯茎が雑菌に感染して、炎症を起こすわけです。

初期症状は「親知らず周辺の歯茎が痛み、赤く腫れる」というものです。親知らずの別名を「智歯」というので、「智歯周囲炎」と呼ばれます。
悪化すると発熱・喉の痛み・倦怠感などの全身症状が現れることもあり、この段階に至った場合は「歯性感染症」と呼ばれます。

斜めに生えてきている親知らずがあり、「周辺の歯茎が痛い…」と感じた場合は、智歯周囲炎を疑いましょう。

歯医者さんでは、元凶となる親知らずを抜歯するケースもあります。
しかし、炎症が強いときは、親知らずの抜歯ができません。
理由は、麻酔も効きにくく、抜歯したときの腫れや痛みが強くなるからです。
そこで、鎮痛剤・抗生物質を処方して炎症を抑え、患部が落ち着いてから改めて抜歯することになります。

応急処置:市販の鎮痛剤

すぐに受診できない場合は、市販の鎮痛剤で痛みを抑えましょう。そして、親知らず周辺をきれいに清掃します。
不衛生になった箇所で雑菌が繁殖しているので、衛生状態を改善して雑菌を減らせば、炎症をおさえられる可能性があります。

具体的には、毛先の柔らかい歯ブラシやデンタルフロスなどを使って、親知らずの周りをきれいにします。また、うがい薬で口腔内を殺菌・消毒するのも有効です。

特におすすめなのは、「クロルヘキジシン」を主成分とするうがい薬です。
クロルヘキシジンには歯周病の予防・緩和作用があり、口腔内の殺菌に適しています。クロルヘキシジンを主成分とする薬剤がなければ、ポビドンヨードを主成分とする「いわゆる一般的なうがい薬」でも構いません。

虫歯が原因の痛み

虫歯

斜めに生えてきた親知らずは、全体をきれいに磨くことが難しいため、磨き残しが生じやすく虫歯のリスクが非常に高くなります。

特に磨き残しが生じやすいのは、手前の歯(第二大臼歯)との境目付近です
斜めに生えてくる親知らずの多くは第二大臼歯(親知らずの1つ手前の歯)のほうに傾いて生えてくるので、親知らずだけでなく「第二大臼歯を巻き込んで2本とも虫歯になる」という例が少なからず見受けられます。

応急処置:市販の鎮痛剤・虫歯には市販の塗り薬

市販の鎮痛剤、もしくは、歯に直接、痛みを抑える成分を塗布する塗り薬が有用です。
ただ、これらは虫歯自体が治るわけではありません。歯医者を受診するまでの時間稼ぎのようなものです。
当然ながら、虫歯が原因であれば治療を受けるのが最短の解決策です。

第二大臼歯が圧迫されていることが原因の痛み

第二大臼歯が圧迫されているイメージイラスト

症状:噛んだ時に痛い、圧迫されているような痛みや違和感

斜めに生えてくる親知らずの多くは、第二大臼歯のほうに傾いています。生えてくる過程で第二大臼歯をぐいぐいと押してしまうことにより第二大臼歯が圧迫されて、痛みが生じます。

問題は、単に痛みが生じるだけにはとどまりません。
親知らずが第二大臼歯の歯根(根っこ)を圧迫している場合、圧迫された歯根が溶けて短くなってしまう「歯根吸収」が起きてしまいます。
歯根が短くなった歯は、寿命が縮む傾向にあります。

また、親知らずが第二大臼歯の歯冠(歯の本体)を圧迫している場合、歯並びに悪影響が生じることがあります。親知らずに押された第二大臼歯が手前にずれて、さらに第一大臼歯を圧迫するからです。
1本の歯がずれるだけで連鎖的に悪影響が広がり、歯並び全体に悪影響が及ぶわけです。

応急処置:市販の鎮痛剤

すぐに歯医者さんを受診することが難しければ、とりあえず鎮痛剤を飲んで痛みを緩和しておきましょう。

効き目の強い鎮痛剤がほしければ、「ロキソプロフェン」を主成分とする鎮痛剤がおすすめです。医療用に用いられる鎮痛剤と同成分で、市販薬の中では鎮痛作用の強い部類に入ります。

なるべく早めに受診してください。
第二大臼歯を圧迫している場合、親知らずを抜歯することになります。特に歯根を圧迫しているケースでは、歯根吸収が進む前に対処しなければなりません。

親知らずが歯茎や頬の粘膜を噛んでいることが原因の痛み

親知らずが歯茎や頬の粘膜を噛んでいる

症状:歯茎や頬の炎症、腫れ

歯が斜めに生えていたり、噛んだ時に相手となる歯が存在しなかったりすると、歯茎や頬の粘膜を噛む恐れがあります。斜めに生えている親知らずは「角になった部分」が反対側の歯茎に食いこむ可能性があります。外側に傾いている場合は、頬の粘膜を噛んでしまうことがあります。

口の中に外傷を引き起こすようであれば、多くは抜歯するしかありません。
早急に歯医者さんを受診したほうが賢明でしょう。

応急処置:うがい薬で傷口を殺菌・消毒

クロルヘキシジン・ポビドンヨードなどを主成分とするうがい薬で傷口を殺菌・消毒しましょう。アルコールを大量に含んだ洗口液は、刺激が強すぎて傷口がしみたり、腫れが悪化することがあります。なるべく患部を刺激しないようにしてください。

斜めに生えた親知らずの周囲は歯ブラシが届きにくく、不衛生になりやすいので注意してください。
もし傷口が細菌に感染すると、「大きく腫れる」「膿が溜まる」などの問題を引き起こしてしまいます。まずは殺菌・消毒を心がけてください。

親知らずに少しでも違和感を感じたら、まずは受診しましょう

歯科医院、歯科医のイラスト

親知らずに少しでも違和感を感じたら、すぐに受診するようにしてください。
歯茎の腫れや痛みなど感じる前に、歯茎がムズムズする感じがあったら早めに受診することをおすすめします。

現在は、親知らずは全て抜歯するという治療法よりも「残せるものは残して他の歯が虫歯になった場合の”移植用”に残しておく」といった取り組みをしている歯医者さんも増えています。
親知らずが斜めに生えていたり、横向きに埋まっているという場合は、移植や矯正で適切な位置に戻せる可能性もあります。また、まっ直ぐに生えていて、かみ合う歯がある場合も抜歯の必要はありません。

ただし、なかには必ず親知らずを抜歯したほうが良いという場合もあります。親知らずは、しっかりと主治医と相談して治療することをおすすめします。

親知らずを放置しておくと・・・

親知らずの抜歯と聞くと、多くの方が痛い治療、長期間の治療を想像するかもしれません。そのため、先延ばしにしてしまいがちですが、親知らずを放っておくと、さまざまなリスクが伴います。

周囲の歯がダメージを受ける
親知らずは磨き残しが起こりやすいため、ほかの歯に比べて虫歯や歯周病に侵される可能性が高くなります。そして忘れてはならないのが、虫歯や歯周病は伝染していくということです。親知らずが病気になったことで、隣の歯までダメになるケースは多く見られます。
特に、親知らずが横向きに生えてきた場合は、ぶつかる隣の歯の根部分が虫歯となってしまうことが多くあります。根の部分が虫歯になるとほぼ確実に神経が死んでしまいます。神経が死んでしまった歯は、割れたり欠けたりするリスクが高くなり、歯を失うことにつながります。
また、親知らずが歯周病になった場合は、歯を支える土台が吸収をする為、歯茎がやせて歯槽骨が溶け、隣の歯の土台にも悪影響が及びます。
噛み合わせに悪影響
私たちの歯は、噛み合う場所を求めて少しずつ移動しています。
「上下どちらかの親知らずだけ」が残っていると、相対する歯は噛み合う相手がいないので、親知らずの位置がずれてきて、相対する歯茎と噛み合ってしまったり、噛み合う歯を求めて徐々に移動してしまうのです。
虫歯や歯周病はセルフケアをしながら予防できますが、歯並びが変化してしまっては歯科医院での治療が必要になります。
抜歯の妨げになる要素が増加する
年齢を重ねると、生活習慣病にかかるリスクが高くなるといわれています。可能性としては、抜歯時の歯茎の炎症がなかなか治まらない、感染症を引き起こす可能性が高くなるといった事態が起こりやすくなります。
また、歯は骨に埋まっているため骨が硬くなると抜くのが困難になってしまいます。
炎症を起こしていてすぐに治療できない
長年親知らずを放置している人が抜歯を決断するのは、腫れや痛みが出てからがほとんどです。しかし、歯茎が腫れてしまっている場合は麻酔を打つことができないので治療できません。そうなると腫れが治まってから抜歯することになります。
このような状態になると痛みに耐える時間が長くなってしまい、普通に抜歯するよりもずっとつらい思いをすることになります。

このように、親知らずの抜歯、治療を先延ばしにしていると、大きなリスクになりかねません。ただ、親知らずの抜歯によるダメージは、上の歯か下の歯かで大きく異なります。

比較的骨の堅い下あごの親知らずを抜いた場合は、腫れは1〜2週間、長くても3週間ほどで治まることがほとんどです。上の歯なら、ダメージはさらに小さくなります。

ほとんど腫れない人も多くいらっしゃいますので「親知らずの抜歯=たいへんな治療」と決めつけてしまうのではなく、お口全体の健康を守るため歯科医とよく相談しお口の中をしっかりと把握しておくことが大切です。
何度も言いますが定期的に歯科医院に通い、親知らずが周囲の歯に悪い影響を及ぼしていないかをチェックしてもらうことが重要です。

抜歯手術後に注意すること

抜歯することを選択しても、歯を抜くということはどうしても体になにかしらの負担を掛けてしまいます。歯を抜いたあとは傷口が元どおりになるまでの数ヵ月間、術後ケアをしっかりとおこないましょう。

歯を磨いているイメージ画像

まず、抜歯後の歯磨きは傷口の様子をみながらおこなうようにしてください。歯を磨くときは、歯ブラシを軽く当てて磨きましょう。研磨剤が配合されている歯磨き粉は、傷口を刺激する可能性があるので避けてください。

うがい・運動禁止のイメージ画像

抜歯手術直後 口の中に刺激を与えないようにうがいは避け、血圧が上がるような運動も控えましょう。 抜歯後1週間 痛みや腫れが引いてきます。経過を見ながら抜糸を行います。
痛みがあり長引いているようなら、傷口のかさぶたがはがれていたり、できていなかったりして骨が露出している「ドライソケット」という症状になっている可能性があります。異常を感じたらすぐに主治医に相談し治療を受けましょう。 抜歯から2ヵ月経過 痛みはほとんど引いてきますが、抜歯後のくぼみに「食べかす」が入り込むのが気になりはじめます。爪楊枝や歯間ブラシを使ってきれいにしたくなる気持ちは分かりますが、傷口を傷付けてしまう可能性があるのでやめてください。
この時期は、強めのうがいで洗い流すのがおすすめです。 抜歯後から12ヵ月(約1年)が経つ頃 徐々に歯茎が再生され、だんだんと傷跡も分からなくなります。ただ、歯茎の下では骨の再生が続いているので完全に元通りというわけではありません。
抜歯後に必要なのは、傷口のケアだけではなく、放置せず、適切に人工歯を補うことです。
抜歯箇所をそのままにしておくと、噛み合わせのバランスを取るために他の歯が移動して噛み合わせがずれたり歯並びが悪くなったり、さらに、虫歯・歯周病になりやすくなる、顎関節症を発症する危険性が高まるので注意が必要です。
人工歯には、ブリッジ・入れ歯・インプラントがあります。抜歯前に歯科医師と相談して、治療法を決めておくことをおすすめします。

歯を抜いた後の正しいケア、また治療法を知っておくことは、傷の治りを早め今後の自分の歯を守っていくことにも役立ちます。
はる歯科診療室では、歯を抜く前に医師・スタッフがしっかりとカウンセリングをおこなっています。